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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)45号 判決 1980年2月19日

大阪市東成区大今里西二丁目一三番二一号

控訴人

末松正行

同市同区東小橋二丁目一番七号

被控訴人

東成税務署長

砂本寿夫

右指定代理人

坂本由喜子

中村治

岸本輝雄

加幡修

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和五一年七月八日付でした控訴人の昭和四九年分所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(ただし、昭和五三年七月二一日国税不服審判所長の審査請求に対する裁決により一部取消となった部分を除く。)は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりである(二枚目の「一二六六番」を「一二六八番」に、裏一〇行の「平担」を「平坦」にそれぞれ訂正する。)からこれを引用する。

1、控訴人の主張

(一)  本件譲渡土地と本件取得土地とが交換され譲渡所得が課されるべきものとしても、前記のとおり登記原因は「昭和四六年九月八日交換」となっており、事実共栄建設と控訴人間で右時期を各土地の得喪日と合意したのである。したがってそれによる所得の課税年度は昭和四六年とされるべきであり、所得年度を誤った本件決定は違法である。

(二)  原判決三枚目裏一一行目の「訴外末松力」から末行目の「隣地の所有者であり、」までを、「訴外末松力及び訴外木村富士雄の両名は本件譲渡土地の持分権者であり、」と改め、四枚目表四行目の「末松力及び」を削り、五行目の末尾に「また末松力は昭和五二年春川口税務署に昭和四六年九月八日に売買したとして自主申告し、少額の税金で済んでいる。」を付加する。

(三)  被控訴人主張の本件譲渡土地の固定資産税を昭和四九年九月一八日まで支払っていたことは認める。

2、被控訴人の主張

(一)  被控訴人と共栄建設との交換の経緯は次のとおりである。

(1) 共栄建設は昭和四五年ころ本件土地の附近一帯を買収し、宅地造成事業を行おうとしたところ、控訴人外数名の者(以下控訴人らという)が最後まで買収に応じなかった。控訴人らの所有地がこの造成計画地の中に点在していため造成工事に支障を来した共栄建設は、控訴人らに控訴人らの所有地に区画形質に変更を加える造成工事に協力方を依頼した。

(2) 控訴人らと共栄建設との間における交渉結果は、(イ)控訴人とは造成協力及び換地契約書(甲第四号証)のとおりであり、(ロ)他の者とは造成事業に協力を約し、共栄建設が造成工事費を受け取って一括工事を行い、その代わり同場所地で区画変更もなく減歩もなくそのままとした者、また工事費分及び共有地(道路等)用地提供分の見返りとして同場所地の一部を共栄建設に提供する(現地減歩)とした者等があった。

(3) 右造成事業は造成工事の遅れ等もあり、昭和四八年秋ごろようやく区割設計ができ譲受予定物件地の確認が可能になったので、そのころ控訴人の代理人訴外木村富士雄と共栄建設の社員藤原吾一は現地に赴き、控訴人に渡すべき交換予定地を確認し合い、その内容を確認するため共栄建設は控訴人に対し昭和四八年一二月三日付の「契約書」を発行した。

(4) その後造成工事も完了し共栄建設と控訴人との間で交換も可能となったので、橿原市八木の岡本司法書士事務所で最終の話合いが行われ、双方同時に物件の交換(権利証等の交換)を行い、それぞれの所有権移転登記の手続きを岡本司法書士に依頼してすべての交換契約の履行は終了した。登記簿謄本(乙第二及び第三号証)によると登記の日はいずれも昭和四九年九月一八日である。そして共栄建設は昭和四九年九月一八日の交換取引に基づき、税務署長宛昭和四九年分不動産等の譲受けの対価の支払調書を提出した。

(5) なお、固定資産税等の管理費は昭和四九年九月一八日まで双方共もとの土地について支払っていた。

以上のとおり、昭和四六年には交換予約が行われただけで、昭和四八年秋ごろ交換譲受物件も特定され正式な交換契約が行われ、最終的に控訴人の本物件(交換譲渡物件)を共栄建設に引渡し、共栄建設から交換譲受物件の引渡しを受けたのは昭和四九年九月一八日である。

(二)  譲渡所得における収入の時期について

資産の譲渡による「収入の時期」は、原則として「資産の引渡し」が行われ譲渡人が譲受人から金銭の受領をした時、若しくは譲渡人に譲渡代金引渡請求権が確定した時をもって課税適状に達したとされている。交換は、例えば土地を相手に与える代わりに別の土地を取得するとか、借地権を取得するとかの行為であって金銭価額で現われてこない。そこで所得税法では資産の譲渡の対価として金銭以外の物又は権利等を取得した場合の収入の価額は「その物又は権利等を取得した時」の時価をもって収入すべき金額としている。そうすると収入金額の確定は、「その物又は権利等を取得した時」となる。なお、交換では物等の引渡しは同時履行を原則としており、「その物又は権利等を取得した時」と資産の譲渡(引渡し)の時期は一致し、交換においても資産の引渡しの時をもって「収入の時期」とするともいえる。

ちなみに、これらのことは、所得税法第三六条一項の、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金額以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」同二項の、「前項の金銭以外の物件又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を亨受する時における価額とする。」との規定からも明らかである。

前述のとおり本件においては正に資産の交換が行われたのは昭和四九年九月一八日からであるから、「収入の時期」を昭和四九年分として行った本件決定処分等に違法はない。

三、証拠

控訴人は甲第五、六号証を提出し、乙第四号証の一の成立は不知、同号証の二、三の成立は認めると述べ、

被控訴人は、乙第四号証の一ないし、三を提出し、甲第五号証の成立は不知、第六号証中官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知と述べた。

理由

一、控訴人主張の内容の本件決定及び本件裁決があったことは当事者間に争いない。

二、控訴人が本件譲渡土地を譲渡し、本件取得土地を取得した経緯について考察する。

控訴人が昭和四一年から本件譲渡土地のうち、一二六八番五四については持分二分の一、同番七七については持分四分の一を所有していたこと、共栄建設が本件譲渡土地を含む土地を宅地として造成したこと、控訴人が本件譲渡土地を共栄建設に移転し、その代わりに共栄建設所有の本件取得土地持分二分の一を取得したこと、本件譲渡土地と本件取得土地とは別個の場所にあること、本件譲渡土地については、共栄建設のため昭和四六年九月八日交換を原因とし昭和四九年九月一八日所有権移転登記がなされていること、本件譲渡土地の固定資産税を昭和四九年九月一八日まで控訴人が支払っていたことは当事者間に争いなく、成立に争いない甲第三、第四号証、乙第二号証の一ないし五、第三号証、第四号証の二、三、弁論の全趣旨によって成立が認められる乙一号証の四及び弁論の全趣旨によると、(1)控訴人は本件譲渡土地のうち一二六八番五四について持分二分の一、同七七について持分四分の一を所有していた兄末松力及び同番七七について持分二分の一を所有していた木村富士雄とともに、昭和四六年九月八日共栄建設との間で、造成協力及換地契約書と題する書面で、共栄建設は費用は自己負担で本件譲渡土地を含めて宅地造成(香芝団地)し、法の定める範囲の施行をし監督官庁の許可のあった土地を換地の対象とし、換地の割合は譲渡土地の地積の九〇パーセントとする。換地場所は共栄建設の区割設計が完了し工事に着手する前に双方協議して定めることと約したこと、(2)その後控訴人から三名は昭和四八年一二月三日共栄建設との間で協議して控訴人らの取得すべき土地を特定したこと、(3)共栄建設は昭和四九年九月四日奈良県知事の造成工事について検査を受け、同月三〇日付で検査済証の交付を受けたが、控訴人らと同月一八日双互に交換を原因とする所有権移転登記を了し、控訴人及び末松力は共栄建設が所有していた本件取得土地につき、そのころ引渡しを受けたことが認められ反証はない。

三、控訴人は被控訴人が本件譲渡土地の譲渡につき所得税法三三条の「資産の譲渡」であると認定したのは重大かつ明白な瑕疵であると主張する。

しかし右認定につき瑕疵がないことは、次のとおり付加訂正するほか、原判決六枚目表二行目までの理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決六枚目表二行目の(三)、同七行目の(四)、六枚目裏七行目の(五)を削除し、六枚目表二行目の「そうすると、」を「前記二で認定した事実によると、」と改め、同一二行目の「平担」を「平坦」と訂正する。

2  控訴人は実質的にはなんら譲渡益が発生していないから、被控訴人の認定について瑕疵があると主張するが、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、等価交換であるからということはできない。

四、控訴人は被控訴人が本件譲渡土地の譲渡を昭和四九年と認定したのは所得の年度を誤っていると主張する。

ところで土地所有権の交換による譲渡所得の発生は交換による土地所有権の移転(原則として意思表示により移転がある。)によって生ずるものである(被控訴人主張の引渡を要するものではない)ところ、前記認定事実によると、交換契約成立時には控訴人が移転を受ける土地は特定されておらず、かつ法の定める範囲の施行をし監督官庁の許可のあった土地を換地の対象とする特約がなされているから、前記認定の控訴人が移転を受けるべき土地が特定された後奈良県知事の造成工事についての検査済証の交付を受けた昭和四九年に交換による土地所有権の移転があり、譲渡所得が発生したものと解するのが相当である。したがって被控訴人の昭和四九年の認定には瑕疵はない(ただし本件裁決は昭和四九年に資産の譲渡があったとしながら価格の算定につき交換の土地が特定された昭和四八年によっているのは首尾一貫しないが、その故に昭和四九年の認定が瑕疵ありということはできない。)。なお右のような事実関係における年度の相違は瑕疵があったとしても重大かつ明白なものということはできない。

五、控訴人は本件決定は平等原則に違反し、重大かつ、明白な瑕疵があると主張する。

弁論の全趣旨によって成立が認められる甲第五、第六号証及び弁論の全趣旨によると、前記控訴人と本件譲渡土地の共有者であった末松力は前記交換につき昭和五二年に川口税務署に昭和四六年分の所得税確定申告をし、同じく共有者であった木村富士雄は前記交換につき東税務署に未申告であることが認められる。しかし本件事案のような交換においては課税されないことが例となっていない限り、右事実があるからといって本件決定が平等原則に反し瑕疵があるということはできない。

六、そうすると、本件決定(本件裁決により変更されたもの)には控訴人主張の点につき無効原因とる重大かつ明白な瑕疵はない。

よって本件控訴を棄却し、行政事件訴訟法第七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村瀬泰三 裁判官 林義雄 裁判官 高田政彦)

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